2 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/26(日) 23:47:01.51 ID:AZsWXzPv0

 船に乗って早二日。
どこかへ遠出した事が皆無な僕は、早くもこの時点で体力を使い切ってしまいそうだった。

元々乗り物はあまり強くないのもあって、体調もあまり良いとは言えない。
まだ永夏島にも着いていないのに、この調子で僕は大丈夫なのだろうか。

 船の中はお世辞にも快適とは言えなくて、とにかく一日中ずっと気分が悪かった。
外の空気に当たろう。そう思い外へ出ると、そこには目を見張るほどの青い空があった。

 一日目は朝早くからの出発ですぐに眠ってしまった。
起きても吐き気がしてずっと部屋に籠っていた。
だから船に乗ってから太陽の下に出るのは初めてで、あまりの空の青さに驚いてしまった。

( "ゞ)「うわぁ……」

 生まれてからずっと武運市に済んでいた僕は、空の青さを知らない。
絵本や物語で見聞きする空は随分青いと言われているけど、それは誰かが作った先入観だと思っていた。

というのも武運市の空は青くない。晴れているときは確かに青い色をした空だ。
けれどその空は綺麗な青ではない。
眼球と空との間に半透明なフィルターが掛かっているようで、どこかぼやけた青だった。


3 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/26(日) 23:51:16.05 ID:AZsWXzPv0

( "ゞ)「すげー……」

 何かいい言葉でこの空の素晴らしさを表せないものか。
そう思ったが、どの言葉を並べてもしっくりこない。
口から出てくるのも、凄いという感嘆だけだった。

しいていうなら、その言葉以外何も言えないほどの青さと言うべきなんだろう。
とにかく僕は、この空の青さに見とれていた。

 船の甲板へ向かい、空を仰ぐ。
室内より揺れが激しい甲板は気分が悪くなりそうだった。
けれど自身の体調を気にするよりも、空が見たかった。

 鼻につく潮の香り、雲一つない空、降り注ぐ少し痛い日差し。
知識として知っていたが、どれも初めて感じた物だ。

 暫くそうしていたが、次第に気分の悪さが再び沸き上がってくるのを感じた。
胸の中が掻き回されるような不快感に思わずその場に座り込んでしまう。

しかしそうしたからといって直る訳ではない。
むしろ、頭を下に向けた分更に吐き気を感じた。


5 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/26(日) 23:56:25.20 ID:AZsWXzPv0

 いつまでもこうしている訳にはいかないと思い、重い身体を引きずって歩き出した。
一歩、また一歩とゆっくり踏み出しながら部屋へと戻る。

相当気分が悪い顔をしているんだろう。僕の傍を横切る人達は皆驚いた顔をしていた。
部屋に入ったら真っ先にトイレに駆け込もう。そう考えていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。

(,,゚Д゚)「おい、どうしたんだ兄ちゃん」

 健康そうな肌の色をした男の人が、心配そうに僕の顔を覗き込んでいるのが見えた。
突然声をかけられた驚きのあまり動悸が激しくなる。

とにかく大丈夫という意思を見せよう。
そう思い、取って付けたような笑みを浮かべ、思いつく言葉を並べようと思った。

(i||!"ゞ)「いや、なんでもな……うっ」

 しかし残念ながらそれは叶わず、僕は男の人を押しのけてトイレへと走ったのだった。


6 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/26(日) 23:58:35.48 ID:AZsWXzPv0






第二話
渡る世間に鬼はなし_




7 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:02:33.47 ID:ACUf+X7/0

 今思えばこの旅は実に無計画のまま実行してしまったと思う。
 待ち合わせ場所しか聞いていなかった僕は、夜も明けない内から埠頭で一人先生を待っていた。

無論待っても先生は中々来ない。
というのも元々先生は約束の時間を遅れてくる人だったからだ。
良くて十分。酷い時には一時間以上も待たされた事もあった。

人の姿すらも確認できない埠頭で、僕は夜の熱気に汗を流しながら先生を待つ。
結局先生が来たのは、僕が待ち始めて二時間以上も経ってからだった。

从 ゚∀从「よう、遅れないでくるとは随分張り切ってるな」

(;"ゞ)「だって先生時間教えてくれなかったじゃないですか……」

从 ゚∀从「あれ? そうだったか?」

 言い忘れた事に気付いたのか、はたまた分かった上でで言っているのか。
表情の読めない笑みを浮かべながら、先生は僕に小さなチケットを渡して来た。

从 ゚∀从「これがお前の未来を握る紙切れだ」

 どうにも昨日から先生は先生らしくない。
さっきまでの悪ふざけの笑みはどこへいったのか、滅多に聞かない真剣な声で先生は僕を見ていた。

从 ゚∀从「私はこれを提供した。どう使うかは関ヶ原、お前が決めろ」

 握らされたチケットに視線を落とすと、それには海に浮かぶ船のイラストが描かれていた。


8 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:05:10.89 ID:AZsWXzPv0

 僕と先生の関係はあくまで先生と生徒であって、それ以上の関係はない。
プライベートにどこかへ行くような仲でもなければ、助け合うような仲でもない。
個人的な悩みや相談をしてくれる、先生で有ると同時に一番近い信頼者だ。

けれどその悩みも全て小説の話。それ以外の趣味の話はした事がなかった。
言ってしまえば小説で繋がっているのであって、それがなくなればただの他人だ。

 にも関わらず、先生はこうして僕の為にと準備をしてくれた。
その意図や本心は読み取れないけれど、間違いなく僕の事を考えてくれている。そう思ったんだ。

( "ゞ)「先生……ありがとうございます」

从 ゚∀从「礼は結果を出してから言ってくれ」

 照れくさいのか、そっぽを向く先生が何だかおかしい。
怒られると分かっていながらも、堪えきれず笑ってしまう。
しかし先生は怒るどころか、思い出したように僕の方を見てチケットを指差した。


11 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:07:22.12 ID:ACUf+X7/0

从 ゚∀从「そういやそのチケット、六時発なんだ」

( "ゞ)「へ?」

 嫌な予感がした僕は、腕時計を見て現在の時刻を確認した。
六時まであと十分。広い別府埠頭の中、残り十分で目的の船を探さないと行けない。
頭で理解するよりも先に、僕は飛び出していた。

从 ゚∀从「転ぶんじゃねぇぞ」

 暢気な先生の声を背中で受け止めると、狙ったかのように僕の身体は宙に浮いた。
背中に強い衝撃を感じ、あまりの痛さにその場に踞ってしまう。
後方から聞こえる先生の甲高い笑い声に、少し憎らしく思った。

从 ゚∀从「さっさと行かねぇと置いてかれるぞ。早く行けー」

 服を払いながら立ち上がり、先生の声を聞きながら走り出した。
後ろを振り向いて先生に合図をする時間も惜しい。
とにかく慌てて永夏島行きの船を探し、出発直前になんとか乗る事に成功した。

それが二日前の出来事だった。


12 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:10:46.76 ID:ACUf+X7/0

(,,゚Д゚)「大丈夫か?」

(;"ゞ)「はい……すみません」

 慌てて駆け込んだトイレから出ると、さっき僕に話しかけて来た男の人が立っていた。
男の人は僕に水の入ったペットボトルを渡して、近くのベンチにどっかりと座った。

(,,゚Д゚)「まだ顔色良くないぜ、少し座ってろよ」

 本音を言うと、そのまま部屋へ戻って横になりたかった。
けれど実際まだ足下は覚束ず、胸がムカムカしていたのもまた事実。
何も急ぐ事はないだろう。僕は男の人の好意に甘えて隣へ座った。

( "ゞ)「ありがとうございます。水まで貰ってしまって」

(,,゚Д゚)「いいってことよ。船酔いするやつぁ別に珍しい物でもないしな」

( "ゞ)「そうなんですか?」

(,,゚Д゚)「ああ。だから最近は飛行機の方に客をとられちまってなぁ……」

 落ち込んだように話す男の人の声を遠くに聞きながら、僕は先生の事を思い出していた。

考えてみれば移動手段に飛行機もあったはずだ。
船と飛行機。どちらが到着までに掛かる時間が短いかは一目瞭然。
にも関わらず、敢えて海での移動を決めた先生の心情が分からなかった。


15 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:14:12.76 ID:ACUf+X7/0

 もしかしたら先生なりの考えがあったのかもしれない。
けれど時間の節約等を考えればあまりに効率が悪いように思う。
結局僕が本格的に動けるのは今日の午後からで、感覚的には学校で迎える夏休みと変わらないのだ。

 そうは言っても永夏島行きを勧め、移動の為のチケット買ってくれたのも先生だ。
腑に落ちない所は多々有るけれど、こうして行かせてもらっている事にはとても感謝をしている。
向こうにいても何も変わらない日々を惰性で過ごしていたのかもしれないと思うと、空恐ろしく感じた。

 島に着く前から既に驚いている現状は悪くないと思う。
島に着けば今よりもっと驚くような事があるんだろう。
そう考えただけで胸が高鳴った。

(,,゚Д゚)「兄ちゃんは永夏の観光客か?」

 僕の体調が良くなったのを見計らってか、男の人がこんな事を聞いて来た。
先程の話からしてきっと船の人なんだろう。愛想のいい顔を見て僕はそう予想した。

 観光客、かと聞かれたら曖昧な返答しか浮かばなかった。
そもそも今回の旅の目的自体が小説から離れて考える事だから、永夏島の何かを見に来た訳じゃない。

けれど小説から離れるという意味では観光と言ってもおかしくはない。
考えにあぐねた結果、一番シンプルかつどれとも当てはまる返事をした。


18 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:16:41.35 ID:ACUf+X7/0

( "ゞ)「観光客……かはわかりませんが、似たような物ですね」

(,,゚Д゚)「ギコハハハハ! そうかそうか。なぁーんにもないだがゆっくりしてけよ」

 男の人は豪快に笑うと、僕の背中を強く叩いた。
予想していなかった行動に驚いた僕は一瞬肩を跳ね上がらせてしまった。

初対面なのにこんなに親しく接してくれる人は初めてで、嬉しくなる。
人付き合いは得意な方ではないが、人との会話や交流は好きだ。

僕より数段力が有りそうな男の人の勢いに圧倒されながらも、笑って返す。
今度は心からの笑顔だ。

 船の中が慌ただしくなると、男の人は一度大きく身体を伸ばして立ち上がった。

(,,゚Д゚)「そろそろ付く頃だな。一応すぐに出られる準備はしておけよ」

( "ゞ)「はい、ありがとうございます」

(,,゚Д゚)「おう、じゃあな」


22 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:20:38.47 ID:ACUf+X7/0

 去り際に手を振る男の人の背中を見送ると、僕も席を立った。
気分の方は大分良くなっている。海の方を見れば、遠くに小さな島の影が浮いていた。
事前知識がないからはっきりとは言えないけれど、きっとあれが永夏島なんだろう。

( "ゞ)「……」

 身体が疼き出す。これから先の事を考えると怖いというのが本当のところだ。
でもそれ以上に、期待や楽しみで溜まらない自分もいる。
こんな気持ちは初めてだ。かつてない高揚感が体中を駆け巡っている。

( "ゞ)「部屋に戻るか……」

 外で景色を楽しんでいた人達の波に乗って、僕も部屋へと戻って行く。
通り際には船員の人なんだろう。
先程別れた男の人と似たような服を着て慌ただしく駆けている姿が見えた。

きっとあの中にさっきの男の人もいるんだろうな。
その姿を確認する事はなかったけれど、あの豪快な笑い声がいつまでも頭の中に残っていた。


24 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:24:31.55 ID:ACUf+X7/0

『お降りの際は忘れ物にご注意ください……』

 声の良く通る女性アナウンスの言葉を聞くのはこれで六回目だ。
到着と同時に外から聞こえて来た喧騒と人のざわめきに、最後に出ようと決めていた。

六回目を迎えたアナウンスが流れた終わる頃、流石に人の出入りが少なくなっている。
遠くから親子の微笑ましい会話が聞こえる他は、喧騒もざわめきもなくなっていた。

( "ゞ)「よしっと」

 忘れ物はないかと最後に部屋全体を確認すると、ようやく僕も部屋を出た。
船を降りるまでの道に人はほとんどいない。
出口へ向かうにつれて人の声を感じる以外に人の気配を察するものはなかった。

 時々船員の人が僕とすれ違い、いってらっしゃいと声をかけてくる。
僕はそれに丁寧な会釈で返すと、もう一度あの男の人の後ろ姿を探した。
気分の悪い僕を介抱してくれた相手だ。せめてもう一度挨拶がしたかった。

けれど探しても男の人は見つけられず、結局言えないまま船を降りてしまった。
人の出会いは一期一会。この小さな島の中で僕はあと何度人と出会い別れを経験するんだろう。

 船を降りると、迎えの人がちらほら見えた。
久しぶりの家族に会えた顔、旅の疲れで疲労を見せている人。
各々の思いが船を乗って、ここへ届く。

ずっと武運市にいた僕には分からない、遠くの人と会えた思い。
感じた事はないその思いが、少し羨ましくなった。


25 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:26:37.08 ID:ACUf+X7/0

( "ゞ)「ん?」

 誰かの視線を感じる。
どこからだろうと辺りを見渡してみると、視線の相手はすぐに見つかった。

 船から降りてきた人の集まりから遠く離れた場所。
視線の持ち主はそこから僕を見ている小さな女の子の物だった。

(*‘ω‘ *)

 幾つなのかは分からない。
おそらく五歳くらいだろう、その女の子ははっきりとした目で僕だけをじっと見つめていた。

 どこかで見かけた覚えはない。これがその子とのファーストコンタクトのはずだ。
にも関わらず女の子は僕を瞳に捕らえたまま視線を逸らさない。
どうしてなんだろう。気になった僕は女の子の方を見る事にした。


28 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:28:25.98 ID:ACUf+X7/0

三( *‘ω‘ )

( "ゞ)「あっ」

 目が合ったそのほんの数秒。
女の子は弾かれるように飛び出すとどこかへ行ってしまった。
ぴょんぴょん跳ねながら去って行く女の子に置いて行かれた僕は、一人呆然としていた。

( "ゞ)「何だったんだろう……」

 呟いた所で、誰もその言葉に返してはくれない。
気がつけば先程までいた人はいなくなり、手持ち無沙汰に立っている僕だけがそこにいた。

取り敢えず僕もどこか別の場所へ行こう。
大きめの鞄を背中に背負うと、僕は港から歩き出した。


30 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:30:13.72 ID:ACUf+X7/0

 港から少し歩いた所には大きな魚市場があった。
昼間の市場は賑わっていて、多種多様な人の声が飛び交っている。
気になった僕は、市場の中を少し覗いてみる事にした。

( ><)「よっ! 奥さん、一匹買って行きませんか?」

J( 'ー`)し「あら、美味しそうね。買って行こうかしら」

(*゚ー゚)「もう少し安くならないの?」

( ><)「すみませんなんです! これ以上は火の車なんです!」

 @@@
@#_、_@
(  ノ`) 「ちょっとアンタ! この量でこの値段はおかしいんじゃないのかい!?」

(;><)「すみませんなんです! えっとー……親方早く帰ってこないかな……」


33 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:32:32.36 ID:ACUf+X7/0

 市場の中を見てすぐにある店では、気弱そうな男の人が一人で客の切り盛りをしていた。
最初は対応が間に合っていたが、安くて新鮮な物を求める人で溢れると対応が行き届かなくなっていた。

(*゚ー゚)「まだかしら?」

J( 'ー`)し「あのー、これが欲しいんですけど」

(;><)「あわわわわわわ。待って欲しいんです!」

 男も女も関係ない。その光景は戦場というに相応しい場所だろう。
市場の中にこそ入らなかったが、入らずとも人の声と熱気でその勢いが伝わる。
その勢いに圧倒されながら、僕は市場を後にした。


34 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:34:16.73 ID:ACUf+X7/0

 知らない道を歩くというのは少し怖い物がある。
見慣れない街並、見慣れない空気。見慣れた物なんて一つもなかった。

( "ゞ)「にしても凄いな……」

 もう一度空を見上げる。相変わらず息を飲むような青さだ。
空だけじゃない。突き抜ける太陽の日差しだって武運市では感じられなかった。

 夏の暑さというのは湿っていて、身体に張り付くようなうっとうしさだと認知していた。
けれどここの暑さは違っていた。

太陽の日差しが空から降り注ぎ、突き抜けるような痛い日差しが肌を焼く。
そこから熱が生まれ、身体中に熱さが駆け巡る。
痛いけれどどこか気持ちが良い。そんな暑さだ。


37 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:37:08.88 ID:ACUf+X7/0

 行きがけに見た海。あの海の青さにも驚いてしまった。
船に乗っている時はただただ空のほうに目を奪われてしまい、海の方まで見る事はなかった。

 魚市場から出て暫く歩いた所にあった砂浜。
人影のないそこを見ると、太陽の光に反射して海が輝いていた。

青いといっても空の青さとは違う。
波の一つ一つが色んな青の色を主張していて、様々な青がそこにはあった。

水平線を境に存在する空の青と海の青が決して混じりあう事はない。
二つの青は互いに譲り合いながら自己主張をしているように見えた。

 ここでも僕は凄いという言葉以外の思いを出す事が出来なかった。
間違いなく空を見た時とは別の思いを抱いていたはずなのに、それを上手く言葉にする事ができない。
それほど強い衝撃を、あの海に感じたのだった。


38 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:39:57.46 ID:ACUf+X7/0

 気がつくと、人の入りが多い街へ出ていた
永夏島、だなんていうからも田舎のイメージが強かったがそうでもないみたいだ。

必要最低限のコンビニもある。見た事のある店もある。
武運市で見た景色がここにもあることに、僕は少し安堵を覚えた。

 どこかの店に入って休もうかと思ったけれど、身体が休む事を許してくれない。
もっと色んな物を見て感じたい。疲労感よりそっちの方が大きかった。

 そうは言っても事前準備もそこそこに来た所だ。
どこに何があるのかなんて分かるはずもなく、当てもなく歩いていた。

けれどそれがとても楽しい。
暑さで汗が頬を伝っても、日差しの眩しさに目を細めても、それすら楽しさに思える。
外の景色が輝いているように見えて、何を見ても新鮮だった。

40 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:43:04.57 ID:ACUf+X7/0

 流石にずっと歩いていると喉が渇いて来た。
自動販売機で水を買い、行儀が悪いと思いながらもその場で一気に飲む。
水分を欲していた身体に水を流し込むと、それだけで体力が回復して行くように思えた。

( "ゞ)「うあー……」

 大量に摂取した水に最初は身体がついていけず、胸のあたりに何かが掛かったような気分の悪さがあった。
けれど暫くするとその気持ち悪さもなくなり、今度は少しずつ水を飲んで行く。
喉の乾きが収まった時には、もう三分の一しか残っていなかった。


42 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:45:02.74 ID:ACUf+X7/0

 水分補給をした事により、それまで止まっていた汗が再び流れ出す。
大きく息を吐くと、雲が現れ始めた空を見上げた。

( "ゞ)「ふー……さて、どうしようか」

 誰に言う訳でもなくそう呟くと、腕時計で現在の時間を確認した。
時刻は四時半。ここに着いたのは確か十二時を少し過ぎたくらいだったはずだ。
こんなにも時間が経っていたという驚きとともに、僕はもう一度空を見上げた。

 四時の空と言えば影が伸び、夕暮れを告げて辺りはオレンジ色の世界になるはずだ。
けれど今僕が見ている空は変わらず青く、日が落ちる気配もない。

無論、太陽が西へと向かっているのは目に見えて分かる。
それでもこの時間になっても夕方を感じさせないとは。
驚きと同時に僕は、安堵の息を漏らした。

( "ゞ)「考えたら泊まる場所の事、決まってなかったんだよな……」

 ついさっき気付いた事実。
これからここで泊まる為の宿をまだ見つけていない事だった。

 どこかの宿に泊まろうとは思うが、どうにもこういう事は初めてでどうすればいいのか勝手が掴めない。
どうすればいいだろう。そう考えると一等最初に先生の顔が浮かんで来た。


43 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:46:54.96 ID:ACUf+X7/0

( "ゞ)「もう授業終わってる頃だよな」

 ポケットから携帯を取り出し、先生へと電話を掛ける。
出る事を願いながら呼び出し音を聞いていると、怠そうな先生の声が聞こえて来た。

『あーい、高岡でーす』

( "ゞ)「僕です、関ヶ原です」

『んなもん知ってる。ちゃんと登録してるからな』

 眠たそうな声だ。きっと夜遅くまで作業をしていたんだろう。
時折欠伸を噛み締める声が聞こえて来た。

『でー、どうだ? 満喫してるか?』

( "ゞ)「満喫というか驚きの方が大きいですね……それもありますが本題は別の方なんです」

 自動販売機の隣に設置されているベンチに座る。
木の下にあるベンチはちょうどいい具合に木陰を作っていて、生暖かい風が僕の頬を撫でた。


46 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:48:41.03 ID:ACUf+X7/0

 電話越しの先生は疲れているんだろう。声に元気がなかった。
タイミングを間違ったかと今更になって後悔していると、先生の方から本題を問いかけられた。

『何かあったのか?』

( "ゞ)「何かってほどじゃないんですけど、宿の方どうしようかなと思って」

『野宿』

( "ゞ)「僕はサバイバルしに来てはいません」

『相変わらず冗談が通じねぇ野郎だ』

 ライターの火が着く音がここまで聞こえてくる。
煙草の煙を吸い、吐き出す一連の行動を聞いていると、予想通りの返答が返って来た。

『自分で考えろ』

(;"ゞ)「そうは言っても何がどうなのかもわからないし、大体こういう事自体初めてだし……」

『うじうじ言ってる暇があったらさっさと宿探しに行け。これも社会勉強の一環だ』

 絶対今思いついたに決まってる。
口には出さないその言葉を、僕は頭の中で呟いた。


48 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:52:19.49 ID:ACUf+X7/0

『大丈夫だ。どっかのテレビ番組みたいに純情そうな顔して行けばほいほい泊めてくれるだろ』

(;"ゞ)「あれは有名人だから成立する事で、実際一般人がしたら引きますよ」

『まあな。私も見ず知らずの他人が来たらまず追い返す言葉を考える』

 解決策どころかアドバイスにもならない話を続けていると、受話器の向こうで先生を呼ぶ声が聞こえた。
先生は一度電話を持つ手を下げ、声をかけた人物と二三会話をする。
どんな話なのか、僕の所までは聞こえなかった。

話が終わったのか、紙の擦れる音と共に再び先生の声が聞こえて来た。

『今から会議だから切るわ。健闘を祈る』

(;"ゞ)「ええっ!? ちょっとせんせ……もう切れてる」

 唐突に電話を終了させられてしまい、静止の声をかけた時には既に虚しい機械音だけが響いていた。
溜め息を吐き、携帯をポケットの中へと戻した。

 ある程度予想はしていたし、先生の言う事は正しいと思う。
泣き言を言っている暇があるなら自分の足でどうするか決めないといけない。

 立ち上がり、残った水を全て飲み干してゴミ箱へ入れる。
取り敢えず一度街へ行って、泊めてもらえそうな宿に当たってみよう。

 じわじわと遠くからひぐらしの鳴き声がする。夕方はもうそこまで来ているようだ。
急かされるようなその鳴き声を聞きながら、僕は宿探しへと足を向けた。


49 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:54:37.44 ID:ACUf+X7/0


( "ゞ)「はい、ありがとうございました」

 そうそううまい話が転がっている訳はない。
宿の人の申し訳なさそうな顔に、心配ないと笑いながら頭を下げる。
これで断られたのは五軒目だ。

 予約も無しに暫く泊めてくださいというのは無理がある。
宿側にも事情はあるし、夏休みが重なるこの時期はどこも人でいっぱいだった。
空は茜色、時計は六時。そろそろ本格的に野宿も考えなければいけなくなってきた。

 一度座って考えようと思い、近くにあった公園のブランコに一人座った。
僕より先に公園にいた子供達は、仲良く手をつないで帰路を歩いている。
真夏の太陽の下で遊んだその頬は赤く、けれど表情は今日という一日を楽しく終えた満足感で満ちていた。


53 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 00:57:23.44 ID:ACUf+X7/0

 走る子供達の後ろ姿を見る。
僕にもあんな風に毎日を楽しく過ごしていた時期があっただろうか。
元々人と話をするのは得意な方ではなかったせいもあって、休日はほとんど家で過ごしていた記憶しかない。

そう考えると、僕の中には本当に書く事しか残されてないんだなと思い知らされる。

 降下して行く気分を止めるため、頭を振って思考を中断させる。
今こんな事を考えても何もならない。意味のない思考は止めよう。
ブランコに座り直すと、鉄の寂れた音がした。

( "ゞ)「まいったなー…」

 野宿するにしてもどこにするのかが問題だ。
ひとまず、完全に日が落ちるまで宿を当たってみよう。
自分自身に言い聞かせながら立ち上がろうとすると、不意に声を掛けられた。

「おう、何してんだ兄ちゃん」

 夕日の逆行で姿がよく見えないが、聞き覚えのある声だ。
声の主が僕の所までやってくる。
近づくに連れて、眩しくて見えなかった姿を確認出来るようになった。

( "ゞ)「昼の船の……」


56 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:00:48.56 ID:ACUf+X7/0

(,,゚Д゚)「何だ、また気分悪くしてんのか?」

 男の人は首に下げているタオルで汗を拭きながら、座っている僕を見下ろす。
先程船で会ったときとは違う、ノースリーブにジーパンという比較的軽い格好をしていた。

 気分が悪いのか、という問いかけに僕は首を横に振る。
男の人はへぇと呟くと、僕の持っている荷物を見てニヤリと笑みを浮かべた。

(,,゚Д゚)「はっはーん。そういう事か」

 腕を組み、全てを見通したような口ぶりで男の人は言った。

(,,゚Д゚)「兄ちゃん、宿がないんだな」

 的を得た男の人の言葉に、僕は小さく頷いた。
僕の頷きを見ると男の人は、僕を纏う重い空気を豪快に笑い飛ばした。

(,,゚Д゚)「ギコハハハハ! 意外だな!
    見た感じしっかりしてそうだから計画して来たのかと思ったら、宿の事は考えてなかったのか」

( "ゞ)「まあ……ちょっとした事情で」

 曖昧な返事をすると、男の人は聞いているのか聞いていないのか何も言わずに立ち去ろうとする。
一体どうしたんだろう。男の人の行動の意図が分からずただ座って見ていた。

 数歩歩いた所で男の人は振り向き、未だ座っている僕を見ておいおいと言いながら戻って来た。
すると僕の腕を掴み、無理矢理立たせて引きずるように歩いて行く。


57 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:03:24.48 ID:ACUf+X7/0

(;"ゞ)「あ、あの、一体どこにいくんですか?」

(,,゚Д゚)「またここで会ったのも何かの縁だ。俺のお勧めの宿まで連れてってやるよ」

 男の人の口から出た言葉に、僕は耳を疑った。
嬉しさのあまり顔がほころぶ。興奮のあまり声が高くなっていた。

( "ゞ)「いいんですか!?」

(,,゚Д゚)「ああ。まあ乗れよ」

 男の人は公園の近くに止めていた車を指差し、乗るように勧めた。
僕は男の人に向かって一度頭を下げると、助手席に乗り込み大きく息を吐いた。

続いて男の人も乗り、車のエンジンを掛ける。
車内をかけ巡るクーラーの冷たさがほてった身体を冷やして、とても気持ちよかった。

 車の中では色んな話をした。
男の人の名前はギコさんと言う事。漁をしながら時々武運市行きの船にも乗っている事。
ギコさんの話の大半は奥さんの事ばかりで、自分と奥さんの出会いを事細かに語っていた。

 それと同時に僕自身の事も話した。
武運市から来た事。スランプに陥って悩んでいる事。そして、先生の勧めでここに来た事。
すっかりギコさんのペースに乗せられた僕は、自分でも不思議なくらい色んな事を話していた。

59 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:07:25.79 ID:ACUf+X7/0

ギコさんは僕の話を聞きながら頷き、粗方話し終えると息を吐き出しながらすげぇなと呟いた。

(,,゚Д゚)「それでわざわざここまで来たってことか。最近の学生は大変だな」

( "ゞ)「でも好きでやってますし、大変だとは思いませんよ」

(,,゚Д゚)「随分真面目なこった。ま、せっかく来たんだ。難しい事はなしで行こうぜ」

 正面を見据えながら笑って言うギコさんに、背中を押された気がした。

 車を走らせて三十分くらいだろう。
街からずいぶん遠く離れたそこは街頭も少なく、家の明かりが少しあるだけだった。
外はもう夜になりつつあって、太陽の光が申し訳ない程度に空に残っていた。

 他のどの家よりも大きな家の前で、ギコさんは車を止めた。
一階の窓から明かりが漏れている扉の前には、民宿般若と掲げられている看板がある。
きっとここがギコさんの言う宿なんだろう。

 ギコさんが先に家の中へ入り、後に続くように僕も入った。
民宿と言っても作りは普通の家と変わらず、玄関の先には長い廊下があった。
廊下を歩いてすぐにある部屋に広間があり、ギコさんはそこで待つように僕に言った。

 大きめに置かれた机と複数の椅子があり、僕は端の方の席に座って待つ事にした。
窓の近くに風鈴が下げられていて、時折綺麗な音を鳴らしている。
クーラーも掛けていない部屋は不思議と暑くなく、外からの風だけで十分だった。


61 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:09:32.05 ID:ACUf+X7/0

「おかえりギコ君」

「おうただいま。ついでに客も連れて来たぞ」

「あら、珍しい」

 近くでギコさんと、若い女の人の話し声が聞こえて来た。
次いでこちらにやってくる足音が四つ。
廊下からギコさんと、綺麗な女の人が居間へ入って来た。

(*゚ー゚)「こんばんは、長旅で疲れているでしょう?」

( "ゞ)「え、あ、はい」

(,,゚Д゚)「そういや飯はまだ喰ってないんだよな?」

( "ゞ)「はい、まだ……」

 です、と続けようとすると、タイミング良く腹の虫が鳴った。
まさかこのタイミングで鳴るとは思わなかった。
ギコさんも、女の人も笑っている。

頬に熱を感じる。僕は恥ずかしさを隠す為に俯いてしまった。


62 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:11:19.94 ID:ACUf+X7/0

(*゚ー゚)「ちょうど今ご飯をつくっているところなの。すぐに用意するから待っててね」

 女の人はそう言うと、慌ただしく居間から出て行ってしまった。
さっき聞いた話からすると、ここはギコさんの家でさっきの人はギコさんの奥さんなんだろう。

惚けた顔をしている僕を見て、ギコさんは楽しそうに笑っている。
僕の隣の席に座ると、突然可愛いだろうと聞いて来た。

( "ゞ)「ギコさんの奥さん、ですよね?」

(,,゚Д゚)「そうだ、しぃっていうんだ。どうだ美人だろ? くれと言われてもやらないからな」

(;"ゞ)「そんな事するわけないじゃないですか」

(,,゚Д゚)「ギコハハハハ! 冗談に決まってんだろ!」

 豪快に笑いながらギコさんは僕の背中を叩く。随分奥さんに惚れているんだろうな。

 食欲を掻き乱す良い香りが僕の鼻を掠める。
考えてみれば昼に船で出されたご飯を食べて以来何も口にしていなかった。


63 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:14:55.62 ID:ACUf+X7/0

 ギコさんの笑い声も収まり、居間には外からの風と風鈴の音しか聞こえなくなった。
廊下の方をチラチラ見ながら、ご飯を待っているギコさんに僕は気になっていた事を尋ねた。

( "ゞ)「ここの民宿はギコさんの?」

(,,゚Д゚)「ああ。俺の親父がやってたのを継いだんだ。
    まあ、辺鄙な所にあるから金にもならなくて、ほぼ副業も同然でやってるけどな。
    客だって年に四五人くりゃ良いくらいにしか来ねぇしな」

 なるほど、だから漁もやっているのか。
民宿もしながら他の仕事もしているなんて大変だと気になっていた。

 納得したような僕の顔を見て、ギコさんはだからと言葉を続けた。

(,,゚Д゚)「デルタは本当に久しぶりの客だ。
    街から遠くなるけど泊まって行けや。料金も割引してやる」

 情けない事を言うと、割引という言葉に思わず反応してしまった。
けれどギコさん達の家の事情もある。
今日だけでギコさんには随分助けてもらっているのに、これ以上お世話になっていいんだろうか。

迷っているとギコさんは僕の肩を叩いて、あの何もかも吹き飛ばしてしまうような笑みを見せてくれた。


64 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:15:56.31 ID:ACUf+X7/0

(,,゚Д゚)「気にすんな。これも何かの縁ってことだからな。
    その代わり向こうに戻ったら宣伝してくれよ。
    永夏に来たら是非般若に、ってな」

 ギコさんの言葉に、思わず笑ってしまう。
ギコさんもつられて笑っていると、楽しそうねと言うしぃさんの声が聞こえて来た。

(*゚ー゚)「はーい、ご飯出来たわよ」

 両手に美味しそうなご飯を乗せたお盆を抱えてしぃさんは夕食の準備を始める。
三人分のご飯とみそ汁、焼き魚とサラダを丁寧に置いて行く。

(,,゚Д゚)「おっ旨そうだ」

 ギコさんがそう言いながら魚へと手を伸ばすと、すかさずしぃさんがギコさんの手を叩いた。

(*゚ー゚)「そんな事してる暇があったら手伝って」

(,,;゚Д゚)「おう……ゴルァ」

(;"ゞ)「……」

 惚れた弱みというべきか、ギコさんは相当しぃさんの尻に敷かれているんだと思った。


66 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:17:15.50 ID:ACUf+X7/0

 そそくさと居間と出たギコさんを見送ると、しぃさんは準備を再開した。
一人座っているのもいたたまれなくなり、しぃさんの手伝いをしようと思い席を立つ。
しぃさんは茶碗を並べようとする僕を見て、大丈夫と言って僕の手を静止しようとした。

(*゚ー゚)「私のやる事なんだし、座ってて待ってて」

( "ゞ)「いえ、そういう訳にはいきませんよ。これからお世話になるんですし」

 どんな顔をして言えば良いのか分からず、しぃさんの方を見ずに言った。
しぃさんの小さな笑い声が聞こえる。ギコさんとは正反対の、上品な笑いだ。

(*゚ー゚)「それじゃあ、お願いしちゃおっかな。お箸並べてもらえる?」

( "ゞ)「はい」

 しぃさんと一緒になってご飯の準備をする。
そういえばこうして誰かとご飯を食べるのは久しぶりだ。
両親はいつも締めきりに追われていて、家族一緒になって食べる事が少なかった。

最後に食べたのは僕の入学祝いに外食をした時だっけ。
こうして家で肩を並べて食べるのは、あまりなかったような気がする。


67 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:18:56.91 ID:ACUf+X7/0

( "ゞ)「しぃさん」

 僕の呼ぶ声に、なあにとしぃさんは聞き返した。

( "ゞ)「暫くの間、よろしくお願いします」

(*゚ー゚)「ふふ、こちらこそよろしくね」

 笑みを浮かべながらしぃさんはそう言った。
笑ったときの何もかもを吹き飛ばすような明るさはギコさんに似ている気がする。
ギコさんは勢い良くその場を明るくするけど、しぃさんは優しく場を明るくするような感じだ。

(,,゚Д゚)「んなの良いから早く食べようぜ」

 お茶と三人分のコップを持って現れたギコさんに、しぃさんはギコさんの頭をお盆をで叩いた。

(*゚ー゚)「もう、ギコ君の食い意地っ張り!」

(,,゚Д゚)「だって腹減ってんだ。デルタも腹減ってるんだし、細かい事は後にしようぜ」

(*゚ー゚)「もう……」

 口ではそう言いながらも、しぃさんの声色は少しも怒気を感じなかった。
準備も済み、三人並んで席に座る。
ギコとしぃさんの掛け合いに、聞いているだけで笑みが溢れる。


68 ◆AoH6mbCY.w 2009/07/27(月) 01:22:03.77 ID:ACUf+X7/0

(*゚ー゚)「それじゃあ、いただきます」

( "ゞ)「いただきます」

(,,゚Д゚)「いただくぜゴルァ……痛っ!」

(*゚ー゚)「ちゃんと言いなさいよ」

(,,;゚Д゚)「だからって盆の角で叩く事はないだろ」

 風鈴が鳴る夜。優しい風が部屋に滑り込んでくる。
この島に来て初めて触れた人の優しさと温かさを噛み締めながら、明日からの日々を思っていた。






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